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佐藤春夫著、邱若山訳『植民地の旅』2002年。
佐藤春夫(1892〜1964)は和歌山出身で、詩人、小説家、評論家。「病める薔薇」で文壇にデビューし、谷崎潤一郎と芥川龍之介と並び大正期に最も著名な作家の一人である。
佐藤は1920年6月から10月の間に台湾で旅行し、日本に戻った翌年には台湾での旅の体験をもとにして小説、随筆、旅行記を書き下ろした。人類学者の森丑之助の薦めもあって、佐藤は訪台中、特に山地と原住民部落の観察に関心を寄せていた。ここで展示されている小説では、南方の熱帯風景に注目し、原住民の様々な現状を描き、また総督府の山地政策に対しても批判を行っている。彼の台湾関係の著作をとおして、日本人の植民地に対する想像のドアが開かれ、後輩作家の南方憧憬の道を開き、日本人作家が台湾に関する創作を行う際の模範となった。
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司馬遼太郎『台湾紀行』、2005年。
司馬遼太郎(1923〜1996)は本名、福田太郎で大阪市出身である。小説家。題材の多くは日本の戦国時代、幕府末年、明治維新の初頭に由来し、「国民作家」と呼ばれている。
司馬遼太郎は1993、1994年に三度に台湾に渡って台湾全島を行脚し、したがって『週刊朝日』の「街道をゆく」シリーズに「台湾紀行」を発表し、のちに朝日新聞社からまとめられて出版された。この本には経済、政治、人文について記されており、李登輝前総統との対談「場所の悲哀」も収録されており、全36篇がある。作者は1990年代の台湾を観察し、史料の勉強と収集を行うことをとおして、歴史の転換における台湾人の切なさと苦悶を描き、日本人が台湾を理解する際の初歩的な著書となっている。
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林文月『京都一年』、1971年。黃得時寄贈。
林文月(1933〜)は彰化人で、上海共同租界に生まれたが、1946年に台湾に戻っており、学者で随筆家である。日本古典文学の翻訳と紹介に長けており、『源氏物語』『枕草子』などを翻訳し、著作には『京都一年』『讀中文系的人(中国語学科の人)』などがある。
この本は、林が1969年に台湾行政院国家科学委員会からの援助を得て、日本の京都大学人文科学研究所で研修員をしていた間に、京都の名園や年中行事をテーマにした随筆集である。心に感じたものを文字にし、京都の風情をこまかく描写している。すべての文章は林海音の主宰する『純文學雜誌』に掲載されており、1971年に出版され、大きな反響を呼んでいた。この本も京都を理解する際の初歩的な著作となっている。
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陳銘磻「雪琉璃」手稿。作者提供。
陳銘磻(1951〜)のペンネームは沈芸生で、新竹人である。随筆家でルポライターをしている。近年は旅行記の創作に没頭し、文学作品における文化や風景に関心を持っており、実際に現地を踏査して書いている。
ここで展示されている作品は『雪瑠璃』に収録されており、北海道、関東、伊豆半島、近畿、四国、沖縄などの特集をしている。作者が1980年以降に日本全国を旅した感想と、日本に向かわせた父親への思い出が綴られている。「雪瑠璃」においては、瑠璃工芸で有名な北海道の小樽が舞台に、透き通った「瑠璃」の特質をとおして白い雪で覆われる街の美しい輝きを映し出している。